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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で プロローグ4

傘を買いたかったが、コンビニは見当たらなかった。思い出したコンビニにたどり着く頃には、すでにビショビショに濡れてしまい、店内に入るのも憚られるほどだった。

自分は一体何がしたいんだろう。そんな風に思っても、もう車に戻ることもできない。家に入ることもできない。後戻りできない状況を自分で作ってしまったのだから、先に進むしかないはずなのに、予想外の大雨で、宗司は来た道を戻らざるを得なくなった。

いくら夏とは言え、濡れたからだのままで一晩を過ごすことはできない。どこか雨宿りができて、眠る場所を探すしかなかった。そうなると、ネカフェしか思いつかない。スマホを持たないだけで、知っている街さえも知らない場所のように感じた。天気も地図も、人が生きる上でこんなに大切な情報だったのかと、宗司は身を持って感じていた。だけど、もうiPhoneは車の中に置いて来ている。思いつく場所以外に行く宛はなかった。

国道沿いを傘をさして歩く。行き交う車からの水しぶきも気にならなかった。ネカフェは自宅のすぐ近く。なんて情けないのだろう。本当に自分は一体何がしたいんだろう。こんなに雨に打たれて、寝る場所もままならない状態で、現実から逃げても、余計に自分が惨めになるだけだった。

だけど、自分がこれまで生きてきた37年間の行き着いた先がここなのだから、このまま知れきった人生を終えるのも悪くないのだろう。後何日生きてられるのかも分からないことに不安も感じない自分が不思議だった。もう、生きることは、どうでもよくなっていた。

はじめてのインターネットカフェ。天気と地図を見て過ごしていた。行きたい場所はない。ないけれど、いつか住みたいと思っていた福井県の敦賀にでも行ってみようか。釣り道具はないけれど、海を見たい。そこからずっと北へ行けば、いつか行った東尋坊の方までも行ける。別に身投げするつもりはないけれど、楽しかった頃の思い出に浸るのも悪くないだろう。

ただ、天候はよろしくない。明日の午前中は晴れるみたいだけれど、そこからぐずつくようだった。どうも、許しはえられない。

翌日、宗司が目覚めたのはお昼手前だった。昨夜の土砂降りはどこに行ったのか、すっかり青空。夏の空だった。ジリジリと日に焼かれながら、宗司はネカフェを後にして、適当に歩き出した。とりあえず、福井県に向かう方向へ。

これまで車でしか通ったことのないような道を歩いてみると、景色もそうだが、距離を感じた。夏の日差しに余計にそう感じたのかも知れない。汗が滴り落ちる。歩き疲れた頃、小さな駅にたどり着いた。いつしか青かった空を厚い雲が覆っている。これは、夕立が来る。

そう感じた宗司は、そこから電車に乗ることにした。電車を待つ間に、また土砂降りとなった。

滋賀県北部の街、長浜に着いたものの、別に勝手知ったる街ではない。やはり地図は必要だった。宗司は、本屋で地図を見ようと、本屋を探した。それに、お風呂に入りたい。昨日の土砂降りも、今日の汗も洗い流したかった。

客観視できていないが、きっと自分は浮浪者のようだろう。きっと目に輝きもない。明日を見れない。

夜までの時間を適当に過ごし、歩き疲れた宗司は、またネカフェにいた。やはり死にたいわけではなかった。天候を理由にしているのだから、死にたいわけじゃない。だけど、生きる気力もない。生きながらにして死んでいる。そんな状態だった。

ネカフェでカバンの中を見ていたら、一枚だけ名刺が入っていた。

その名刺は、所属していた団体の会員さんの名刺だった。そこで、宗司はふと思った。

「この人に連絡取れたら、オレを救けてくれる人に繋がるんちゃうか」

宗司の所属している団体は、経営者団体なのだけど、その団体で最初に知り合った人は、「命のホットライン」などのボランティアをしていると言っていた。あの人なら、何か生きる希望をくれるかも知れない。その人に会いたい。そう思ったのだ。やはり、死にたいわけではなかった。

ただ、手元にスマホはないから、明日にでも公衆電話を探すしかない。果たして、このご時世、どこに公衆電話があるのだろうか。

そんなことを考えながら、ほんの少し生きる希望を胸に、宗司は二日目の夜を過ごした。続く〜。

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